Update:2013.04.15[Mon]Category : LIFE

ボードカルチャーが社会を変える

ストリートアートが小学校の校舎を彩る。反社会的な落書き行為を規律や道徳の価値を教える学校が必要とするという、とても不思議な光景がロサンゼルスにあった。

「学校はダウンタウンから1時間ほど南下したパラマウントという街にありました。総住民数の8割近くがヒスパニック系移民で、地域的な特徴が生み出した光景らしいですよ」

そう教えてくれたのは花井祐介くん。逗子を拠点にアーティスト活動をするサーファーで、彼のアートもその校舎に描かれている。学校に招待され、昨年の夏に描いてきたのだ。

「僕を呼んでくれたのはエリック・カルーソという先生です。聞けば学校には90年代から美術や音楽という芸術分野の授業はなく、生徒たちに機会を与えたいとプロジェクトを興したというんです」

学校はハリーワーツ小学校という。スペイン語圏の国から移り住んだ人が多く、そのため生徒たちの多くが英語を母国語として育っていない。ひとりあたりの平均収入がカリフォルニア州のそれの半分にも満たない状況は、家庭内の教育環境を向上させるには難しい。また学校運営の主な財源となる税金も十分ではないため、学校はサポートの手厚い環境を確保することができない。そこでハリーワーツ小学校は基礎学力向上を最優先とするカリキュラムを採用してきた。結果、美術や音楽の時間はなくなった。そのぶんを読み書きや算数に充ててきたのだ。日本とは違い、アメリカの場合はカリキュラムを学校区が決めることができるためである。

しかしエリック先生は疑問を抱いてきた。読み書きと算数に向き合うだけで学校生活を終えてしまうのは非常につまらない。生徒にはその子なりの才能や得意な分野がある。そう思い、ついに自らアートプロジェクトを立ち上げたである。ボディボーダーだったという背景も、彼の思いを後押しした。個人的な知り合いにシェパード・フェアリー(*OBEYの愛称で知られるアーティスト。大統領選挙中にオバマをモチーフとしたポスターを手がけたことで有名)というアーティストがいて、彼に相談したところ全面的な協力を取り付けたのだ。さらにシェパードが知人を紹介してくれ、人が人を呼び、昨夏は海を越えて花井くんのところまで協力を募る声が届いた。

花井くんによるとプログラムはふたつの項目で構成されているという。ひとつは『smART』というプログラム。『students making ART』の略で、生徒にアートを創作してもらうことをテーマとする。エリック先生が受け持つ5年生を対象に月に1度開催され、毎回異なるアーティストから提供される作品を題材に生徒たちが創作する。昨年度は前述したシェパード・フェアリーに加え、トーマス・キャンベル、ジェフ・カンハム、リッチ・ジェイコブスらストリートアート界のビッグネームが参加。生徒の創作物は彼らアーティストによる選定を受け、年に1度の発表会で優秀者が表彰を受ける。もうひとつは『MURAL』。日本語で『壁画』を意味する同プログラムは、まず招待アーティストに校舎の壁にペインティングをしてもらう。次に全校生徒へ壁画を披露し、感じたことを絵や文章でノートに記してもらうもの。いわば体感学習の趣きなのである。

そして花井くんは、壁画を描くことを最大の目的に同校を訪れた。

「生徒のなかにはホームレスの子もいると聞きました。校内では笑みを見せていても、想像を越えた生活を送っている生徒がいる。だから学校にいる時くらいは、アクティブにスポーツをやって、前向きな気持ちを抱いて欲しい。今回の絵にはそのような思いを込めています」

週末を使って描き切った翌月曜日、校内に新しく誕生したアート作品に生徒たちは目を奪われていた。手にしていたノートにさっそくペンを滑らせる子もいれば、花井くんに質問をする子もいる。行動はそれぞれでも、壁画から何かを感じ、心が動いている様子が読み取れる。

「まずは僕の絵に興味を持ってくれたことにホッとしました。アートに興味はなかったけれど、僕の絵を見て好きになったとも言われたんです。子どもたちの反応は素直に嬉しかったし、とてもいい時間を過ごせました。まだ壁は半分ほどのスペースが残っているので、再訪して完成させたいと思っています」

そしてこの5月、花井くんは再度小学校を訪問し、残されたスペースにアートを描くことになっている。

サーフィンやストリートアートという、アメリカで半世紀前に誕生したサブカルチャーは、今や国を問わず世代を超えた人々を魅了しつつあるものになった。いずれもどれだけ自分を満足させられるかを追求する遊びであり、テクニックを高めて競い合うものでもある。あるときは反抗のシンボルとなり、あるときは社会不適応者たちの避難場所になることもあった。実際の行為自体は半世紀を経た今も変わらない。けれど、その役割は確実に変わりつつあるようだ。惚れ込んで追求したサーフィンやアートワークという行為の利点を、自分以外の多くの人のために活用すること。それが新しい時代のサブカルチャーの役割なのかもしれないとハリーワーツ小学校のプロジェクトを見て感じた。確実に時代は移り変わっている。そう確信したプロジェクト模様だった。

photo GRAVIS

小山内 隆 / BLUER Writer

小山内 隆 / BLUER Writer

おさないたかし。サーフィン専門誌の編集長を経てフリーランスへ。サーフィン誌、カルチャー誌等に寄稿しながら、ライフワークとして世界中のビーチタウンを駆けめぐる。ライフスタイル誌オーシャンズでは世界のビーチカルチャー事情をテーマとするコラムSEAWARD TRIPを連載中。東京出身、在住。

Tags:

SPONSOR LINK

BLUER SELECTOnline Shopping